ピーナッツアレルギーについて Medical

ピーナッツアレルギー

ピーナッツアレルギーとは、ピーナッツ摂取後、通常数分〜2時間以内に皮膚(じんましん・腫れ)、消化器(腹痛・嘔吐)、呼吸器(せき・ぜん鳴)、循環器(血圧低下)などの症状が起こる疾患です。重症例はアナフィラキシー(複数臓器の急性反応)に至ります。診断はアレルギー歴(詳細な問診)→IgE感作検査(皮膚プリック試験・血清特異的IgE)→必要時の経口食物負荷試験(OFC)という段階的評価が国際ガイドラインで推奨されています。

ここではピーナッツアレルギーに関して一般的なことを論文なども交えて記事にします。

有病率

日本

日本の大規模出生コホート(JECS)解析では、4歳時のピーナッツアレルギー有病率は0.2%と報告され、乳児期早期導入(離乳初期からの摂取)が行われていた群では有病率が低い関連が示されました。

オーストラリア

オーストラリアHealthNuts(食物負荷試験で確認):1歳時3.1%、4〜6歳でも概ね同水準(~3%)。持続率は卵より高く、寛解は限定的。

診断

アレルギー歴(問診)

  • 摂取量・形態、発症までの時間、症状、時間経過、再現性、増悪因子(運動・感染・NSAIDs・空腹など)を問診で確認します。ガイドラインなどでも問診は検査と同様に重要とされています。

検査(血清特異的IgE/皮膚プリック試験)

  • 感作の有無を確認し事前確率の調整に使う。陽性=必ず症状ではなく、陰性でも稀に症状が起こりうる点は注意が必要です。EAACI(欧州アレルギー臨床免疫学会)は特異的IgE/皮膚プリック試験を一次検査として推奨。

コンポーネント診断(Ara h 2 など)

  • Ara h 2はピーナッツアレルギーの特異度が高い指標です。メタ解析ではAra h 2特異的IgEの特異度約92%など高性能が示され、偽陽性を減らす目的で有用です。臨床フローチャートでAra h 2が極低値なら耐性の可能性が高いとする実臨床研究もあります。

経口食物負荷試験(OFC)=最終確定

問診や検査で診断が確定できない場合は経口食物負荷試験(Oral Food Challenge)を行います。

  • 適応:問診と検査から確率が中等度で、診断確定や摂取許容量の判定が臨床的に有益な場合。
  • 実施:何回かに分けて摂取します。救急対応の整備が必須で入院ないし、外来で行われます。

予後と生活上の注意点

予後

ピーナッツアレルギーは、乳・卵に比べて自然寛解(症状が出ずに食べられるようになる)の割合が低い傾向があります。前向きコホートでは、乳児期に経口負荷試験で確定した児の約2割が4歳までに寛解し、残る多くは学童期も持続します。再評価では、皮膚プリック試験(SPT)膨疹径や特異的IgE値が高いほど持続しやすく、逆に低下していく児ほど寛解しやすい傾向が示されています。

  • 4歳までの寛解:およそ22%(95%CI 14–31%)
  • 持続を示唆する所見:年齢とともにSPT膨疹径やピーナッツIgE・Ara h 2 IgE(共に検査値)が上昇/高値で推移。
  • 寛解を示唆する所見:SPT膨疹径の縮小、特異的IgEの低下。

当院では、年齢・既往歴・合併症(喘息など)を踏まえて、定期的に問診+感作検査を見直し、必要に応じて経口負荷試験(OFC)で実際の可否を確認します。

生活上の注意点

  • 食品表示の確認:日本では落花生(ピーナッツ)は特定原材料(表示義務)です。容器包装された加工食品では原材料欄を必ず確認してください。
    ※外食・総菜など店頭販売品は法的義務の対象外があり、店頭での確認が必要です。
  • 交差汚染(コンタミ)対策:製造ラインや厨房での混入で症状が出ることがあります。
  • 緊急時対応:アナフィラキシー既往や全身反応のリスクがある方には、アドレナリン自己注射薬の携帯と学校・園を含むアクションプランの共有を勧めます。
  • 増悪因子:運動、発熱、感染症、NSAIDs、空腹、寝不足などは反応を強めることがあります。体調不良時の摂取は避け、指示量を超えないでください。
  • 他ナッツの扱い:ピーナッツは「豆類」で、アーモンド・くるみ等の「木の実(ツリーナッツ)」とは分類が異なります。一律の全面除去は推奨されず、未摂取ナッツは個別に医師と評価します。

治癒(自然寛解・治療誘導寛解)の可能性

自然寛解:乳児期確定例の一部(概ね約2割)は幼児期までに寛解します。学童期以降は自然寛解の頻度は低下しますが、SPT・特異的IgE(とくにAra h 2)低下が見られる場合には再評価の価値があります。

治療による閾値上昇/寛解:小児・思春期に対するピーナッツ経口免疫療法(OIT)は、摂取継続中の耐性を高率に得られることが示されています。一方、完全中止後も反応しない状態(持続的非反応=SU)の獲得割合は年齢・プロトコル・回避期間で幅があり、未就学児ほどSUの達成率が高い傾向が報告されています。治療適応はガイドラインに沿って、有効性とリスク(有害事象、通院負荷)を丁寧に説明し、施設体制のもとで判断します。

  • OITの目的:誤食時の重症反応リスクを下げることが主目的。SU達成はプロトコル依存で概ね20%前後〜高い報告では70%程度と幅があります(若年ほど良好)。
  • 国内運用:日本の診療では「食物アレルギー診療の手引き2023」等の枠組みに準拠し、実施可否・方法は医療機関ごとに判断されます(保険・施設基準の適用は事前にご確認ください)。

予防に関して

高リスク乳児への早期導入は、学術的に最も確立した予防戦略の一つです。無作為化試験(LEAP)では生後4〜11か月からの定期摂取で5歳時の発症が81%減少し、その保護効果は思春期(約12歳)まで持続することが追跡研究で示されました。

ピーナッツアレルギー:緊急時の対応(家庭・学校向け)

アナフィラキシーを疑ったら直ちにアドレナリン(自己注射)を使用し、119番通報・速やかな医療機関受診へ。

アナフィラキシーの見分け方(目安)

食後数分〜2時間以内に、皮膚症状(じんましん・紅潮・口唇/舌の腫れ)に加え、以下のいずれかがあればアナフィラキシーを疑います:

  • 呼吸器症状:せき・ぜん鳴・息苦しさ・持続する嗄声/咽頭違和感
  • 循環器症状:ぐったり・血圧低下・失神・意識消失
  • 消化器症状:繰り返す嘔吐・強い腹痛

体位と初期対応

  • 基本は仰臥位で下肢挙上
  • 突然の立位・歩行は厳禁(血圧低下を防ぐため)
  • 原因食品の摂取を中止し、口腔内残渣を除去する。

アドレナリン自己注射(大腿外側への筋注)

ためらわずに直ちに投与します。衣服の上からでも可。投与後は119番し、救急隊・医療機関に使用時刻を伝えます。

体重別の目安(自己注射)

体重自己注射製剤備考
15〜30kg未満0.15mg 製剤日本で承認
30kg以上0.30mg 製剤日本で承認
15kg未満国内で適切規格の自己注射は原則未承認主治医の指示に従う(施設内では0.01mg/kg筋注が標準)。

※自己注射後も症状再燃に備え、必ず医療機関で観察を受けてください。

2回目投与のタイミング

初回投与後5〜15分で改善が乏しい/再燃する場合は、2本目を同様に投与します(大腿外側、左右いずれでも可)。

補助治療(医療機関または指示下)

  • β2刺激薬吸入(ぜん鳴・気管支収縮)
  • 酸素投与・静脈路確保・輸液:医療機関・救急隊で実施。
  • 抗ヒスタミン薬・ステロイド:必要に応じて(症状軽減・再燃抑制目的)。

学校・園・外出時の備え

  • アクションプラン(緊急対応指示書)を学校・園・家族で共有し、保管場所・使用手順・連絡体制を決定しておきましょう。
  • 自己注射は有効期限・視認点検(変色・漏れ)を定期確認。高温放置を避け携行。

このページは国際・国内ガイドラインと主要論文に基づいて作成されています。最終判断は個々の臨床状況に応じて行います。

金 尚英

執筆者

金 尚英KIN NAOHIDE

副院長

赤羽小児科クリニックの副院長、金 尚英(きんなおひで)です。私自身、二児の父親として子育てに奮闘する毎日を送っております。
その実体験を活かしながら、皆様のホームドクターとして、信頼に応えられるようこれからも学び続け、成長してまいります。
必要な時にいつでも頼れる存在として、ちょっとした体調の不安や育児のお悩みなども、ぜひお気軽にご相談ください。

所有資格

  • 2011年 日本大学医学部医学科 卒業
  • 2011年4月〜 川口市立医療センター 初期臨床研修(小児コース)
  • 2013年4月〜 日本大学医学部小児科入局 附属病院にて後期研修
  • 2015年4月〜 あしかがの森足利病院へ医局派遣
  • 2015年10月〜 沼津市立病院へ医局派遣
  • 2016年10月〜 都立広尾病院へ医局派遣
  • 2020年4月〜 赤羽小児科クリニック 副院長就任