乳アレルギー
日本における乳アレルギーの有病率に関する具体的な統計データはありませんが、乳幼児の食物アレルギーの原因として、鶏卵に次いで牛乳・乳製品が2番目に多いとされています。
このページではその乳アレルギーに関して説明いたします。
乳アレルギーの概要
原因物質
乳に含まれるタンパク質のうちカゼインとホエイ(乳清タンパク質)が原因
カゼイン:牛乳タンパク質の約80%を占める。
・熱に強く、消化されにくいため、加熱処理された食品でもアレルギー反応を起こしやすい。
・チーズ、ヨーグルト、クリームなどの発酵乳製品にも多く含まれる。
ホエイ:牛乳タンパク質の約20%を占める。
・β-ラクトグロブリン(β-lactoglobulin)(最も強いアレルゲン性を持つ)
・α-ラクトアルブミン(α-lactalbumin)
・牛血清アルブミン(BSA, Bovine Serum Albumin)
・免疫グロブリン(IgG, IgA, IgM)
・熱に弱いため、加熱処理でアレルゲン性が低下することがある。
原因食品
牛乳および牛乳由来の食品が主な原因です。以下の食品に注意が必要です。
- 牛乳、ヨーグルト、チーズ、バター
- クリーム、アイスクリーム、ホエイプロテイン
- 乳成分を含む加工食品(パン、菓子、スープ、ソース類 など)
特にチーズはタンパク成分が凝縮されており、牛乳やヨーグルトに比べて単位gあたりの原因タンパクの含有量が多く少量でも重篤な症状に進展しやすい食品です。
症状
乳アレルギーの症状は軽度から重度までさまざまですが、以下のようなものがあります。
- 皮膚症状:じんましん、かゆみ、湿疹
- 消化器症状:腹痛、下痢、嘔吐
- 呼吸器症状:鼻づまり、くしゃみ、喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難
- 全身症状(アナフィラキシー):血圧低下、意識障害、ショック状態(緊急対応が必要
これらは、一般的な食物アレルギーの症状となり乳アレルギーに特異的なものはありません。
一方で、乳アレルギーの症状は強いことが知られており、アナフィラキシーになることも多い食材です。
乳アレルギーの有病率
日本における乳アレルギー(牛乳アレルギー)の有病率は、年齢層によって異なります。
乳幼児期(0~6歳):0.2~2.1%
小中高生:0.16~1.3%
出典:食品安全委員会「アレルゲンを含む食品(牛乳)」
診断と治療
診断
乳アレルギーの診断は以下の診察・血液検査・食物負荷試験を組み合わせて総合的に判断します。
乳アレルギーを疑うのは摂取により症状が出現した場合です。検査だけでは判断しません。
- 診察(問診、症状の確認、視診・聴診・触診)
- 血液検査
- 食物負荷試験(医療機関で実施)
皮膚の症状などが出現した場合は、すぐに変化するため写真撮影をしておくことをおすすめしております。
その上で可能であれば小児アレルギー専門医の診察を受けることが望ましいです。
検査
① 血液検査(特異的IgE抗体検査)
・血液中の牛乳タンパク質(カゼイン・ホエイなど)に対するIgE抗体の量を測定
・数値が高いほどアレルギーの可能性が高いが、検査だけでは確定診断にはならない
② 皮膚プリックテスト(皮膚テスト)
・乳タンパク質のエキスを皮膚に滴下し、針で軽く刺して皮膚の反応を確認
・15~20分後に膨疹(赤みや腫れ)が出るかどうかをチェック
・血液検査より即時型反応を評価しやすい
③ パッチテスト(遅延型アレルギーの検査)
・乳タンパクを含む試薬を皮膚に貼り、48時間後・72時間後の皮膚の反応を見る
・即時型ではなく遅延型アレルギー(湿疹など)の診断に有効
④食物負荷試験
最も確実な診断方法で、専門の医師のもとで行う必要があります。
・少量の乳製品を摂取し、アレルギー反応を観察
・軽症の場合は加熱した乳製品(クッキーなど)から試すことも
・重症の場合は慎重に進めるか、実施しないこともある
治療
乳アレルギーの治療には、「アレルゲンの除去」 と 「耐性獲得のための経口免疫療法」 があります。
症状の重症度や年齢によって、適切な治療方法が選ばれます。
アレルゲンの除去
基本はある時期まで牛乳や乳製品を摂取しないことが基本となります。
食事管理(完全除去 or 低アレルゲン食)
- 食品表示を確認し、「乳」や「乳成分」を含む食品を避ける。
・チーズ、ヨーグルト、バター、アイスクリームなど
- 代替食品の活用
・豆乳・アーモンドミルク・オーツミルク など
・乳不使用のアレルギー対応食品(大豆ヨーグルトなど)
経口免疫療法(Oral Immunotherapy)
① 少量の乳製品を摂取し、徐々に耐性をつける治療
・専門医の指導のもと、微量な乳や希釈乳(薄めた乳)、加熱した乳製品(クッキー、パンなど)などを少量ずつ摂取し、徐々に量を増やしていく。
・軽症~中等症の患者に適用されることが多い。
・完全に耐性を獲得できるとは限らず、一部の患者には症状が継続する
② 耐性獲得の成功率
・研究によると、小児期に実施した場合、約70~80%の子どもがある程度の耐性を獲得できる。
・再発するリスクもあるため、長期的な経過観察が必要。
予後
乳アレルギーは成長とともに耐性を獲得し、改善する可能性が高い食物アレルギーの1つです。
しかし、重症度や個人差によって経過が異なるため、適切な管理と経過観察が重要になります。
乳アレルギーの自然寛解(治る可能性)
- 乳幼児の乳アレルギーの約50〜80%は3〜6歳までに耐性を獲得 すると言われています。
- 1歳時点での寛解率は約19%、3歳で42%、5歳で64%、10歳で79%(研究データによる)
- 重症な場合(アナフィラキシー歴がある場合など)は治りにくい傾向。
予後に影響する因子
乳アレルギーが改善しやすいかどうかは、以下の要因によって異なります。
① IgE抗体値(血液検査の数値)
・牛乳に対する特異的IgE抗体が高いほど、耐性を獲得しにくい。
・カゼインに対するIgEが高いと、治りにくい傾向がある。
② アレルギー症状の重症度
・じんましんや湿疹程度の 軽度症状のみの乳アレルギーは、耐性を獲得しやすい。
・アナフィラキシーを起こしたことがある場合は、耐性を獲得しにくい。
③ 加熱耐性の有無
・加熱した乳製品(クッキーやパンなど)を食べられる子どもは、耐性を獲得しやすい。
・加熱した乳製品でも症状が出る場合は、耐性を獲得しにくい傾向がある。
④ 他のアレルギーとの関連
・食物アレルギーの中でも 鶏卵・小麦アレルギーを併発している場合は、治りにくい。
・アトピー性皮膚炎や喘息のある子どもは、乳アレルギーが長引きやすい言われている。
成人まで続く可能性
- 乳アレルギーは 幼児期に寛解することが多いが、一部の人は成人まで続きます。
- 成人でも牛乳を飲むと腹痛や下痢を起こす「乳糖不耐症」と混同しやすいため、症状の原因を正確に診断することが重要です。
まとめ
乳アレルギーは小児科で比較的よく見られる疾患です。また、少量でも重篤な症状を発現する可能性のある疾患です。
診断自体は比較的容易ですが、自然に耐性を獲得できない場合には経口免疫療法などを慎重に進めて耐性獲得を目指す必要があります。
これらのことを踏まえると、乳アレルギーを疑った際には、小児科アレルギー科の専門医を受診していただくのが望ましいと考えます。
当クリニックでは乳も含めて院内で経口負荷試験を行っております。
診断の確定や閾値(どれくらい摂取できるか)の確認を行っております。
経口負荷試験についてのご相談は外来にて承っております。
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執筆者
金 尚英KIN NAOHIDE
副院長
赤羽小児科クリニックの副院長、金 尚英(きんなおひで)です。私自身、二児の父親として子育てに奮闘する毎日を送っております。
その実体験を活かしながら、皆様のホームドクターとして、信頼に応えられるようこれからも学び続け、成長してまいります。
必要な時にいつでも頼れる存在として、ちょっとした体調の不安や育児のお悩みなども、ぜひお気軽にご相談ください。
所有資格
- 2011年 日本大学医学部医学科 卒業
- 2011年4月〜 川口市立医療センター 初期臨床研修(小児コース)
- 2013年4月〜 日本大学医学部小児科入局 附属病院にて後期研修
- 2015年4月〜 あしかがの森足利病院へ医局派遣
- 2015年10月〜 沼津市立病院へ医局派遣
- 2016年10月〜 都立広尾病院へ医局派遣
- 2020年4月〜 赤羽小児科クリニック 副院長就任