小麦アレルギーについて Medical

小麦アレルギー

このページでは、小麦アレルギーの基礎知識から診断・治療、そして生活の中で気を付けるポイントまで、 既知の知見に基づいてわかりやすくご紹介します。ご家族の安心とお子さんの健やかな成長をサポートするために、ぜひお役立てください。

小麦はパンや麺類など日常的に食卓にのぼる食材ですが、子どもにとって時に強いアレルギー症状を引き起こすことがあります。小麦アレルギーは乳幼児期に発症することが多く、軽症からアナフィラキシーまで症状の現れ方はさまざまです。

正しい診断と生活の工夫により、多くのお子さんは安全に日常を過ごすことができます。そして成長とともに自然に耐性を獲得していく場合も少なくありません。

概要

定義

小麦アレルギーは、小麦に含まれるタンパク質(グルテン、グリアジン、アルブミン、グロブリンなど)に対して、免疫システムが過剰反応することで起こる疾患です。食後数分〜数時間以内に症状が出る「即時型反応」が多く見られます。

発症年齢

多くは乳幼児期に発症し、就学前〜学童期にかけて耐性を獲得する例もあります。ただし、一部では成人まで持続する場合や、思春期以降に発症する特殊型(運動誘発性小麦アナフィラキシー:WDEIA)も報告されています。

症状の多様性

皮膚(じんましん、紅斑、かゆみ)、呼吸器(咳、喘鳴)、消化器(腹痛、嘔吐、下痢)、全身性反応(アナフィラキシー)など多岐にわたります。

参考文献
  • Boyce JA, et al. Guidelines for the Diagnosis and Management of Food Allergy in the United States. J Allergy Clin Immunol. 2010.
  • 日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」

有病率と疫学

日本での有病率

乳児期における小麦アレルギーの有病率は約0.3〜0.5%と報告されています。食物アレルギー全体の原因食物としては、卵・牛乳に次いで第3位です。

自然経過

多くの児は学童期までに耐性を獲得しますが、耐性獲得のスピードは卵や牛乳よりもやや遅い傾向があります。

国際的データ

欧米でも同程度の有病率が示されており、食物アレルギーの中で小麦は普遍的に主要な原因の一つです。

📖 参考文献
  • 内田恵理ほか. 日本における小児食物アレルギーの現状. アレルギー. 2018.
  • Peters RL, et al. The prevalence of food allergy in children: a systematic review and meta-analysis. Pediatr Allergy Immunol. 2017.

診断と治療

診断

問診の重要性

発症年齢、摂取した食品の内容、摂取量、症状が出るまでの時間を詳細に確認します。

血液検査(特異的IgE抗体)

小麦特異的IgE値を測定します。ただし、IgE陽性=必ず症状が出るわけではないため、補助的に用いられます。

皮膚プリックテスト

即時型反応を確認するための皮膚テストで、比較的安全に施行可能です。

食物経口負荷試験(OFC)

診断のゴールドスタンダード。入院または医療機関内で少量から負荷し、症状の有無を確認します。リスクがあるため必ず専門医の管理下で行います。

📖 参考文献
  • Nowak-Wegrzyn A, et al. Oral Food Challenges in Children. J Allergy Clin Immunol Pract. 2020.
  • 日本小児アレルギー学会「食物アレルギー診療ガイドライン2021」

治療

基本は除去食

小麦および小麦を含む加工食品を避けることが中心です。ただし、過剰な除去は栄養不良のリスクがあるため、栄養士や専門医の指導が重要です。

経口免疫療法(OIT)

研究段階ながら、少量の小麦を継続的に摂取し耐性を誘導する試みが行われています。アナフィラキシーのリスクを伴うため、標準治療ではなく、限られた施設で慎重に実施されています。

薬物治療

症状に応じて抗ヒスタミン薬などを使用。アナフィラキシー歴がある場合はアドレナリン自己注射薬(エピペン®)を処方します。

📖 参考文献
  • Nurmatov U, et al. Allergen-specific oral immunotherapy for peanut allergy in children. Cochrane Database Syst Rev. 2012.(OITのエビデンスの代表)
  • Kido J, et al. Oral immunotherapy for wheat allergy in children. Allergol Int. 2018.

生活上の注意

食品表示の確認

食品表示法により、アレルギー表示義務7品目の一つとして「小麦」は必ず表示されています。加工品や調味料(醤油、ソースなど)にも含まれることがあるため注意が必要です。

給食・外食

園・学校では事前にアレルギーについて伝え、代替食や除去対応を依頼しましょう。外食ではお店の方にアレルギーがあることを伝え小麦が含まれないメニューを確認するとともに、混入がないように伝えましょう。

エピペンの携行

重篤な反応を起こした既往がある場合は携行することを検討します。学校や園の先生、家族も使い方を理解しておく必要があります。エピペンの要否に関しては主治医に相談しましょう。

定期的な評価

年齢や症状に応じて再度負荷試験を行い、耐性獲得の有無を確認します。不要な除去が続かないように、必ず定期的な診療を受けることが勧められます。
当院では定期的な血液検査や微量の摂取が可能になった場合は、自宅負荷を行います。
重症度が高い場合は、近隣の高次機能病院へご紹介することもございます。

📖 参考文献
  • Muraro A, et al. EAACI food allergy and anaphylaxis guidelines. Allergy. 2014.
  • 厚生労働省「食物アレルギーに関する表示制度」

まとめ

小麦アレルギーは、乳幼児に比較的多く見られる食物アレルギーであり、症状は皮膚から全身反応まで幅広く現れます。診断には詳細な問診と検査、場合によっては経口負荷試験が必要です。治療の基本は原因食物の除去ですが、必要以上の制限は避け、小児アレルギー専門医の指導のもとでバランスの取れた生活を送ることが大切です。
また、多くの子どもは成長に伴い耐性を獲得します。
定期的な診察で経過を確認し、不要な除去を続けないことが将来の生活の質を高めることにつながります。

小麦アレルギーを疑う場合は、当院へご相談ください。

金 尚英

執筆者

金 尚英KIN NAOHIDE

副院長

赤羽小児科クリニックの副院長、金 尚英(きんなおひで)です。私自身、二児の父親として子育てに奮闘する毎日を送っております。
その実体験を活かしながら、皆様のホームドクターとして、信頼に応えられるようこれからも学び続け、成長してまいります。
必要な時にいつでも頼れる存在として、ちょっとした体調の不安や育児のお悩みなども、ぜひお気軽にご相談ください。

所有資格

  • 2011年 日本大学医学部医学科 卒業
  • 2011年4月〜 川口市立医療センター 初期臨床研修(小児コース)
  • 2013年4月〜 日本大学医学部小児科入局 附属病院にて後期研修
  • 2015年4月〜 あしかがの森足利病院へ医局派遣
  • 2015年10月〜 沼津市立病院へ医局派遣
  • 2016年10月〜 都立広尾病院へ医局派遣
  • 2020年4月〜 赤羽小児科クリニック 副院長就任