口腔アレルギー症候群(以下OAS:Oral Allergy Syndrome)は、特定の果物や野菜を食べた直後に、口の中や唇、喉などにアレルギー症状が出る状態を指します。
この症状は特に花粉症(スギやシラカンバなど)を持つ方に多く見られ、花粉に含まれるアレルゲンと似た構造のたんぱく質が食物中に存在することにより、交差反応が起きることが原因です。
典型的には、果物を生で食べたときに、「口がかゆい」「唇が腫れる」「喉がイガイガする」といった症状が数分以内に現れます。通常は軽症ですが、まれに全身性の重篤な症状(アナフィラキシー)を起こすこともあります。

OASの有病率
OASの有病率概要
OASは花粉症を持つ人の中でよく見られる症状です。
日本における報告では、
- 花粉症のある学童の約15〜30%がOASを発症しています。
成人を含む花粉症患者に限定すれば、約30〜40%程度にOASを発症しています。 - 特にシラカンバ(ハンノキ)花粉、スギ花粉にアレルギーがあるお子さんに多くみられるとされており、低年齢でも果物摂取による症状の訴えがあれば、OASを疑う必要があります。
一般人口ベースでのOASの有病率は大きくばらつきがありますが、
- 1〜5%程度(全国推定)といわれています。
各種花粉症患者におけるOASの有病率
それぞれの花粉症患者に対してのOASの有病率は以下の通りです。
シラカンバ花粉症 | 約60〜70%(北海道など) |
ハンノキ花粉症 | 約30〜50% |
スギ花粉症単独 | 約10〜20% |
原因食品リスト(日本人)
よく見られる原因食品をリスト化しました。
日本では特にバラ科のりんご、もも、さくらんぼが多いと言われております。
原因食品 | 推定頻度(%) | 備考(交差抗原など) |
---|---|---|
りんご | 50〜70% | シラカンバ・ハンノキ花粉(PR-10)と交差反応 |
もも | 30〜50% | バラ科果物。皮にアレルゲンが多く含まれる |
さくらんぼ | 20〜30% | バラ科果物 |
キウイ | 15〜25% | プロフィリンやLTP型アレルゲンが原因 |
メロン | 10〜20% | スギ・イネ科花粉との交差反応 |
バナナ | 10〜15% | ラテックス(ゴム)アレルギーとの交差もあり |
にんじん | 10〜15% | PR-10タンパク(Bet v 1関連)による反応 |
セロリ | 5〜10% | 欧州で頻度高、日本でも一部報告あり |
トマト | 5〜10% | スギ花粉との交差反応、特に皮に多く含まれる |
ナッツ類 | ~5% | ヘーゼルナッツ・アーモンド 重症例もあるため注意 |
多くの場合、加熱すると症状が出にくくなります。果物アレルギーのあるお子さまでも、ジャムやコンポートは大丈夫なことがあります。
参考文献:
- アレルギーポータル(環境再生保全機構):「口腔アレルギー症候群」ページ
https://www.allergy.go.jp/ - 樋口亮 ほか. 日本人におけるOASの原因食物と地域差. アレルギー, 66(3), 2017.
- 木村泰之. 花粉と交差反応を示す果物・野菜アレルゲン. アレルギーの臨床, 33(2), 2013.
OASの診断と治療
診断
OASは、症状の経過と食歴(何を食べていつどうなったか)を詳しく聞き取ることが診断の基本です。
必要に応じて以下の検査を行います。
- 血液検査(特異的IgE抗体):食物や花粉に対するアレルギーの有無を確認
- 皮膚プリックテスト:原因食材を皮膚に少量垂らして反応を見る
- 食物負荷試験:医療機関で安全管理下のもと少量摂取し、反応を確認
当院では年齢や症状の程度に応じて、適切な検査を提案します。
実際には血液検査は陰性のこともあります。そのため、OASの場合は特に被疑食品を食べてからの、症状の経過やどのような症状か、が最も優先されます。
症状が明確な場合、検査が不要な場合も多くあります。
治療
基本的な治療は原因食物の回避(除去)です。症状が軽度であれば、加熱して摂取することで食べられる場合もあります。
症状が強く出る場合には、抗ヒスタミン薬などの内服薬を処方することもあります。また、まれにアナフィラキシーの既往がある方には、エピペン(自己注射型アドレナリン)の処方が検討されます。
近年では、花粉症に対する舌下免疫療法を行うことで、OASの症状も軽減されることが報告されています。
OASの予後(将来的にはどうなる?)
- 予後は基本的に良好です。
- 多くの場合、症状は軽度で、アナフィラキシーに至ることはまれです。
- 時間の経過とともに、症状が自然に軽快する例もあります。
年齢による変化
- 小児では、成長とともに自然軽快することが多いです(免疫の成熟や花粉症の変化に伴う)。
- 成人では、長期にわたって同様の症状が続くことが多いです。
花粉症の重症度との関連
- 花粉症(特にシラカンバ、スギ、ハンノキなど)が強い人ほど、OASの症状が重くなる傾向があります。
- 花粉症の治療(抗ヒスタミン薬、舌下免疫療法など)により、OAS症状も軽減することがあるといわれています。。
OASは、多くの場合思春期〜成人にかけて軽快する傾向がありますが、花粉症の持続や悪化に伴い、再発や重症化のリスクもあるため、慎重な経過観察が必要です。
また、舌下免疫療法は花粉症以外のアレルギー疾患にも良い影響を与えることは最近わかってきておりますが、OASの症状も軽減させることがあるのは特筆すべき点です。
生活上の注意
原因食材の摂取を避ける
- 自分が症状を起こす果物や野菜は基本的に「生」で摂取しないこと
特にりんご、もも、さくらんぼ、キウイ、メロンなどが多い。 - 食物の皮・表面にアレルゲンが多く含まれるため、皮をむいても反応する人は注意すること
- 過去に重症例(全身症状、呼吸困難など)があれば完全除去を推奨します
加熱・加工で安全になることも
- 多くのOASはPR-10タンパク質に対する反応(熱に弱い):
焼きりんご、ジャム、缶詰などは症状を起こさないことが多い。
一方で、LTP型(ナッツ、キウイなど)は加熱しても反応することがある。 - 加工食品の原材料チェックは必須。
花粉症の管理をしっかり行う
- OASは花粉症と連動して症状が強くなる傾向があります。
花粉飛散期には食物への反応が強くなることがあります。
花粉症の治療(抗ヒスタミン薬、舌下免疫療法など)でOAS症状が軽減する場合もあるため、花粉症 の治療をしっかり行いましょう。
外食に注意
- 原因となる果物や野菜が料理に含まれていないかを確認。
- 飲食店でのメニュー確認や店員への説明を習慣に。
- 果物の盛り合わせやサラダなどは要注意。
症状が出たときの対応
- 軽度な口腔内症状(かゆみ、違和感)のみであれば、うがいや抗ヒスタミン薬の内服で対応可。
- 以下の症状が出たらすぐに医療機関へ:
呼吸困難
咳や喘鳴
腹痛・嘔吐
意識障害 - 重症例では、アドレナリン自己注射(エピペン)の携帯が指導されることがあります。
学校・保育園への共有
- 小児の場合は、原因食品や対応法を担任や保健室に共有しましょう。
- 給食対応が必要な場合は、アレルギー対応表提出や医師の診断書が必要となります。
OASのまとめ
- 口腔アレルギーは果物や野菜を食べた直後の口の違和感やかゆみが主な症状
- 花粉症(特にスギ・シラカンバ)との関連が深く、交差反応によって起こる
- 原因食物はりんご、もも、さくらんぼ、キウイ、メロンなどが多い
- 加熱で食べられることもあるため、完全除去は慎重に
- 軽症が多いが、アナフィラキシーのリスクがあるため注意
- ご心配な場合は、小児アレルギー専門医による評価をおすすめします
今回は口腔アレルギー(OAS)に関してまとめました。
小学生以上のお子さんの症状としてはよく見られる症状です。
OASを疑う際にはお気軽にご相談ください。

執筆者
金 尚英KIN NAOHIDE
副院長
赤羽小児科クリニックの副院長、金 尚英(きんなおひで)です。私自身、二児の父親として子育てに奮闘する毎日を送っております。
その実体験を活かしながら、皆様のホームドクターとして、信頼に応えられるようこれからも学び続け、成長してまいります。
必要な時にいつでも頼れる存在として、ちょっとした体調の不安や育児のお悩みなども、ぜひお気軽にご相談ください。
所有資格
- 2011年 日本大学医学部医学科 卒業
- 2011年4月〜 川口市立医療センター 初期臨床研修(小児コース)
- 2013年4月〜 日本大学医学部小児科入局 附属病院にて後期研修
- 2015年4月〜 あしかがの森足利病院へ医局派遣
- 2015年10月〜 沼津市立病院へ医局派遣
- 2016年10月〜 都立広尾病院へ医局派遣
- 2020年4月〜 赤羽小児科クリニック 副院長就任